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25歳に一律1400万円支給 ~ピケティが新刊で示した格差解消策とは~【コメントライナー】

2020年01月02日09時00分

トマ・ピケティ氏=2016年5月撮影(AFP時事)

トマ・ピケティ氏=2016年5月撮影(AFP時事)

 ◆経済評論家・岩本 沙弓◆

 仏経済学者トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」(2013年)が学術書としては異例の世界的ベストセラーになったことで、所得・資産格差問題が大きくクローズアップされた。

 その前著を受けて、ピケティ氏の新刊「資本とイデオロギー(Capital et ideologie)」が2019年9月にフランスで発刊となった。

 ◇さっそく物議

 今回も主軸にあるのは、歴史を通じて経済状況の理解を俯瞰(ふかん)して捉え直す分析だ。

 歴史に出没するさまざまな価値観や考え方などのまとまりをなすイデオロギーを、数世紀にわたり考察。経済的不平等は自然の成り行きではなく、イデオロギーの正当化や政治による、としている。

 経済的不平等が宿命ではない以上、その是正・解消は可能だとする内容が、さっそく欧州メディアなどで物議を醸している。

 前著「21世紀の資本」は経済的不平等が当然の帰結となる要因として、r>g(rは資本収益率=利息・配当金・家賃など資産から得られる収入、gは経済成長率=給与所得)を指摘、経済成長による解消を期待するのは難しいだけに、資本に課税し再分配を促すとの結論だった。

 ◇私有財産の社会還元

 新刊では、不平等解消の具体策として、土地の私的所有権の法的規制強化、相続税・所得税の累進強化、資産に対する累進課税の導入、企業取締役会への被雇用者代表の参加、株主1人の議決権を10%以下に制限、25歳の青年全員に一律約1400万円の一時金支給などに踏み込んでいる。

 提言の根底にあるのは、私有財産の社会への還元という発想であり、社会的資産の形成や分配を、われわれはどう考えるべきか、との問いであろう。

 前著・新刊ともに、ピケティ氏は私有財産を全否定しているわけではない。「節度ある私有財産の尊重」をした上での、マルクス主義とは異なる「参加型社会主義」への移行を掲げる。

 前著では、不平等解消に向け、個人の保有する資本を課税ベースとする「世界的な累進資本税」に触れていた。ただし、これを説く本人も、その実現には「非現実的な水準の国際協調を必要とする」としていたのが象徴的だが、国際的な合意形成というハードルの高さが指摘された。

 ◇国際協調に変化

 しかしながら、ここにきて、これまで進みにくいと考えられてきた国際協調が、デジタル課税では進捗(しんちょく)しつつある。

 デジタル課税は、資産課税ではなく、法人税の分野ではあるが、巨大デジタル企業にとどまらず、より広義な国際法人課税へ向かう様相を呈している。

 あれほど困難とされた国際課税も、協調へと急展開するわけであるから、ピケティ氏の提言を非現実的と一刀両断するのは早計であろう。

 前著を上回る1200ページ超の大作の日本語版が待たれるところだ。

 (時事通信社「コメントライナー」より)

 【筆者紹介】

 岩本 沙弓(いわもと・さゆみ) 青山学院大学大学院修士課程修了。日・米・加・豪の金融機関バイスプレジデントとして外国為替(直物・先物)などトレーディング業務に従事。金融専門誌「ユーロマネー」のアンケートで為替予想部門優秀ディーラーに選出された。国際金融や税制を中心に寄稿、講演、テレビ出演などに活躍。「新・マネー敗戦」「アメリカは日本の消費税を許さない」など著書多数。

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