ある新聞の紙面に、五輪公園と牛飼いのおじさんの写真が載っていた。いい写真だったので、紙面を拡大コピーし、撮影ポイントを探す時の参考にするため持参していた。
ある日、アドレル郊外の五輪公園を見渡せる高台で撮影していると、遠くからカウベルの音が聞こえてきた。もしや、と期待して音のする方へ進んでみると、そこには、紛れもなく被写体となった牛飼いのおじさんがいた。
写真を見せながら話しかけると、「これはワシじゃ。確かにワシが写っている」と言ってものすごく喜んでくれた。「写真を売ってくれ」というようにお金を取り出したので、「もちろんプレゼントする」とジェスチャーで伝えると、感激したのか何度も「スパスィーバ」と言われた。
その後もロシア語でたくさん話しかけられた。おそらく食事に招待されたのだが、お互いに言葉が全く通じないのでどうすることもできなかった。拡大コピーしただけの画質の悪い写真を大事そうに胸ポケットにしまうおじさんの姿を見ていたら、なんだか胸がジンとしてきた。写真が持つ力、撮ることの意味を、改めて考えさせられる出来事だった。
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