約134万トンにも上る東京電力福島第1原発の処理水。浄化設備で除去できない放射性物質トリチウムを含んだ水の処分方法を巡っては、長期間にわたる検討が続けられ、議論の過程では地下埋設や大気放出などの手段が候補に挙がった。24日からの開始が決まった海洋放出は、他の原発でも採用されている実績などが決め手となって選ばれた。
たまり続ける処理水の取り扱いについて、国際原子力機関(IAEA)の調査団は2013年12月、「あらゆる選択肢を検証すべきだ」と指摘した。これを受けて政府は同月から専門家会合で科学的側面から検討を開始。さらに16年からは、風評被害なども含めて総合的に検討する小委員会を立ち上げ、議論を重ねた。
検討対象には、深さ2500メートルの地中に注ぐ「地層注入」や、セメントなどで固めて埋める「地下埋設」など、5案が上がった。だが、地層注入や地下埋設は適切な用地探しが必要になり、電気分解して水素ガス化する「水素放出」は処理過程で水素爆発を起こす危険性があるなど、課題が多いと位置付けられた。
小委は20年2月の報告書で、残る海洋放出と水蒸気放出が「現実的な選択肢」だと指摘。その上で、国内での実績がない水蒸気放出に比べて、海洋放出は▽国内外の原発で実施している▽設備の取り扱いが容易▽拡散予測が容易―といった利点があるとして、「確実に実施できる」と評価した。
一方、「人々の不安が払拭されていない状況下では、既存の風評への影響が上乗せされる」として、徹底的な対策が必要だと強調。政府に対し、放出方針を決定した後も「国民の理解醸成に向け、透明性のある情報発信や双方向のコミュニケーションに長期的に取り組むべきだ」と注文を付けていた。(2023/08/22-20:33)