つぶやきにも必要な日本語力、ツイートする「中の人」に聞いてみた

 

 もはや私たちの日常生活に欠かせないSNS。その中でも「X(旧ツイッター)」は、140字の短文で情報発信ができる手軽さから、国内だけで数千万人が利用している。人気アカウントのつぶやきは、瞬く間に拡散されるが、インパクトのある内容を誰にでも分かる言葉で発信するには、高い「日本語力」が必要なはず。そこで、たびたび話題になる企業や官公庁の公式アカウントでツイートしている「中の人」たちに、どんなことを意識してつぶやいているのかを聞いてみた。

 

 

 

多くの人に受け入れられる「正しい日本語」を意識

 

「X(旧ツイッター)」パイン社公式アカウント
「中の人」のマッキーさん(同社提供)

 まずは、広告を一切せずにツイートだけで売り上げを伸ばしていることで知られる「パインアメ」のパイン社(本社大阪)から。(@pain_ame)「中の人」マッキーさんは、2年前から同社広報室長の肩書を持ち、一人でツイートを担当しているが、もともとは広報・宣伝とは無縁の事務職だった。

 

「当時から宣伝や広告を一切していなかったので、お客さまに商品を知っていただく機会になると思って『タダだから』と軽い気持ちで提案したら、通ってしまいました」というのが同社の公式アカウントが誕生したきっかけだった。

 

 マッキーさんには、「バズらせたい」という欲はそもそもなく、「関西人なので、私のツイートで笑ってほしいという気持ちが基本です。それに、お菓子はやっぱり平和産業ですから、笑顔を作る仕事がしたいなと思っています」というスタンスが奏功し、人気の企業アカウントに成長した。

 

 日本語の使い方については、「自分の言葉で傷つく人がいると、私自身も心がしんどくなってしまう」ので、誰かを傷つけるような表現にならないよう気を付けている。ただ、それでもクレームが寄せられることはある。「ツイートを始めた頃、『食べれます』と『ら』抜き言葉を使ったら、『そんな変な日本語を使うならフォローもしないし、商品も買いたくない』という反応があって…」、それ以来、多くの人に受け入れられる「正しい日本語」を意識するようになったという。

 

 

フォロワーが100万人に迫る警視庁災害対策課

 

 次は、首都の治安を守る警視庁の警備部災害対策課を訪ねた。同課のアカウント(@MPD_bousai )は、2023年8月現在で98万2000人のフォロワー数を誇る。ツイートは災害への備えにつながる話題が中心だが、「水道水だけで体の深部体温を下げる方法」「ペットが熱中症になったときの対処」など、季節に合わせた生活のヒントも多い。

警視庁警備部災害対策課
災害警備情報係長の山中義之警部

 ツイートは同課の職員が持ち回りで担当し、災害警備情報係長の山中義之警部が全体を統括している。

 

 山中警部によると、同課は2011年の東日本大震災の経験を踏まえ、「さまざまな情報が飛び交う災害時に、被災者の方が必要とする正しい情報を発信するには、SNSが最適だと考え、平成25(2013)年1月からツイートを始めました」ということだ。

 

 同課のアカウントが平時から知られていなければ、災害時に情報を発信しても多くの人に届かない。そこでツイートは「できるだけ多くの方に関心を持っていただけるように、身近で親しみやすく、『なるほど』と気付きを感じられる内容や表現を心掛けている」そうだ。

 

 注目を集めるにはタイミングも重要になる。同課課長の田浦善之警視は「今年、地下鉄サリン事件が発生した3月20日にツイートした『事件も災害も風化させない』というキーワードには、『いいね』とリツイートの合計が2万5000件ありました。ツイートを見ている皆さんの目が、研ぎ澄まされているのを感じます」としている。

 

 日本語の使い方について、山中警部は「ユーザーには、老若男女、さまざまな方がいらっしゃるので、簡潔で分かりやすい表現を心掛けています。例えば、『高台に避難してください』というより『高いところに逃げてください』の方が分かりやすく、外国人や小さなお子さん、高齢者、障がいを持った方にも伝わります」と、災害弱者への配慮からも言葉の選択が重要だと語ってくれた。

 

 

「どう受け取られるか」を考えたツイート

 

 「エンゼルマーク」でおなじみの森永製菓(本社東京)は、会社としての公式アカウント(@morinaga_angel)のほか、チョコレート、アイスなど商品カテゴリー別に四つのアカウントを運営している。

 

「X(旧ツイッター)」森永製菓公式アカウントの画面
(同社提供)

 公式アカウントの担当者によると、同社のSNSは広告・宣伝とは別で、「商品の情報も発信しますが、ツイートを通じたお客様との1to1(ワントゥーワン)コミュニケーションを重視しており、どうすれば読者が元気になれて、楽しく、嬉しく、心地よくなっていただけるかを常に意識しています」とのことだった。ツイートを介して対話を作る「アクティブコミュニケーション」を目指しているため、さまざまな価値観を持つ人が、どう受け止めるかを考えながら言葉の使い方にも気を使っている。

 

 ツイートを担当する社員は複数いて、何をつぶやくかは基本的には担当者に任されている。ただし、「ツイート担当は事前に研修があって、会社のソーシャルメディアポリシーを理解するだけでなく、発した言葉が相手に『どう受け取られるか』を考えることを求めます」と、相応の日本語力を持つことが前提になっているようだ。

 

 「例えば、商品のアレンジレシピを紹介して『試してください』と言ったとき、命令調だと感じる方がいるかもしれません。それを『試してみてください』にすれば、語感が軟らかくなります」と、言葉の受け取られ方を十分に考え、言い回しを工夫するという企業努力をしているのだという。

 

 

分かりやすさ優先、あえて「崩す」ことも

 

「X(旧ツイッター)」タニタ公式
アカウント「中の人」近景(同社提供)

 最後に、体重計をはじめとした健康計測機器メーカーのタニタ(本社東京)を訪ねた。体重計は、日々の健康管理に必要なツールだが、同社は社員食堂のヘルシーメニューのレシピを書籍化したほか、社員食堂と同じ料理を提供する「タニタ食堂」を展開していることでも知られる。

 

 企業のSNSとしては老舗で、2011年1月にツイッターの公式アカウント(@TANITAofficial)を開設した。現在の「中の人」は、アカウントを開設した当人だが、もともと新卒で営業職として入社後、当時は営業部と社長室の仕事を兼務していた。

 

 「営業職ではあったのですが、SNSで『モノを売ろう』とは考えていませんでした。むしろ、タニタを知ってもらう、好きになってもらうためのコミュケーションを目指していました」という形で始まった。当初はフォロワー数も少なく、体重計に関わるツイートを探し、他社の商品も含めてサポートすることで、徐々にSNSの世界で知られるようになった。

 

 日本語については、「ツイートは基本的に『話し言葉』ですから、硬くならないようにしています。シチュエーションによっては、あえて崩していくこともあります」ということだった。批判がある「ら」抜き言葉も、前後の文脈によっては使うこともあるという。ただし、「崩す」とは言っても、間違った言葉を使うわけではなく、あくまで「分かりやすさ」を重視してのことだ。

 

 最大で140字の制約がありながら、「ひらがなにした方が伝わりやすいと思えば、漢字を使わないこともあります」と、文字数を増やす選択をする場合もある。形式にこだわらず、ユーザーとのコミュニケーションを大切にするのが、同社のやり方のようだ。

 

 

 

正しく「伝える」ための日本語力を

 

 公式アカウントからのツイートは、単なるつぶやきではなく、何かを「伝える」目的がある。伝えたい内容は企業や官公庁によって異なるが、「分かりやすさ」と同時に、ツイートを読んだ人が「どう受け取るか」を大切に考えていることは変わらない。分かりやすく、相手を傷つけないようにするには、できるだけ語彙(ごい)を広げ、さまざまな言い回しを身に付ける必要がある。日本語を正しく伝える手立てとして、特に日本語検定の活用をおすすめしたい。検定を通じて得た知識は日常生活やビジネスでも役に立つはずだ。「伝える」能力を高めるために、ぜひ日本語検定を利用してほしい。

 

 

日本語検定とは  日本語の「総合的な能力」を測る検定

 

 日本語を学習中の外国人を対象に実施する試験とは異なり、日本語を母語とする人はもちろん、日本語を使うすべての人が対象です。多彩で豊かな日本語を身に付けることで、場面・目的に応じた表現力やコミュニケーション力を高めます。

 

 ビジネスでは、メール文書や書類の作成、プレゼンテーションなどさまざまなシーンで役立ち、正確かつ簡潔に表現することで、顧客の信頼を獲得でき、ミス防止にもつながります。

 

 受検を通じて日本語の総合的な運用能力を向上させるとともに、自身の日本語力を客観的に把握できるので、苦手分野を克服する助けになります。日本語検定を活用し、日常生活やビジネスシーンにおいて、伝わる日本語力を身に付けましょう。

 

 

 

▼日本語検定について詳しくはこちら

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