静岡県の文化・芸術の象徴として、今年の「東アジア文化都市2023静岡県」のアンバサダーとしての役割を期待されているのが、県が設立した劇団「静岡県舞台芸術センター(SPAC)」だ。静岡県が「東アジア文化都市宣言」をした2月23日の「富士山の日フェスタ2023」でも、記念公演として演劇を上演。ゴールデンウイーク期間中に開催するSPAC主催の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」は東アジア文化都市の中心事業と位置付けられており、節目の公式行事である5月2日の「春の式典」でも特別公演が予定されている。

世界で活躍する公立劇団

 SPACは1997年、日本で初めての公立劇団として、静岡県が設立した。俳優・スタッフが所属する劇団であり、欧米やアジアの多くの国から招聘(しょうへい)されて公演を行い、高い評価を受けている。静岡市のJR東静岡駅前にある静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」内にある「静岡芸術劇場」と、富士山を望む景観で有名な日本平の中腹にある「静岡県舞台芸術公園」がSPAC専用の劇場・稽古場だ。

 

 劇団としてだけでなく、演劇祭を主催して海外の劇団を招聘するなど事業体としての側面も持つ。県内の高校生を対象にした演劇塾「演劇アカデミー」を開催するなど、幅広い活動を展開している。

 

 

「演劇アカデミー」で指導を受ける高校生

 

 

 2007年からSPACの芸術総監督を務める演出家の宮城聰氏は、静岡県が東アジア文化都市に選ばれた理由について、地方都市に本拠地を持ち、世界の第一線で活動する国内でほぼ唯一の県立の芸術集団であるSPACの存在も大きく影響していると指摘。「ネット上のやりとりは『違い』を際立たせるが、生身の体同士、身体性を伴った文化交流からは、相手を受け入れる『寛容』が生まれる。それを体現するのが演劇だ」と舞台芸術による文化発信の意義を強調した。

 

 

インタビューに答える宮城総監督

 

 

 

中韓の劇団招聘し演劇祭

 SPAC主催の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」では、東アジア文化都市の参加国である中国、韓国などから5作品を招聘。静岡芸術劇場で中国の孟京輝氏による「アインシュタインの夢」(4月29、30日)、韓国のチョン・インチョル氏の「XXLレオタードとアナスイの手鏡」(5月3、4日)、アン・ウンミ氏の「Dancing Grandmothers ~グランマを踊る~」(5月7日)、舞台芸術公園でフランスのオリヴィエ・ピィ氏の「ハムレット(どうしても!)」(4月29、30日)、韓国のパク・インヘ氏の「パンソリ群唱 ~済州島 神の歌~」(5月5、6日)が上演される。いずれも日本初演となる。 

 

 

「ふじのくに⇄せかい演劇祭」

 

 同時開催イベントとして、静岡市の駿府城公園での演劇や、同市の中心街でビルの壁をキャンバスにダンサーが舞い踊るパフォーマンスなども予定されている。ほかにも、日中韓の演出家によるトークショーや舞台芸術公園の敷地内にある茶畑でお茶摘みを体験するイベントなども開催される。

 

 

駿府城公園で「天守物語」

 劇団としてのSPACは、5月2日に開催される県の公式行事である東アジア文化都市「春の式典」の特別公演として、駿府城公園内に設置される屋外特設会場で演劇を披露する。演目は泉鏡花の「天守物語」だ。

 

 天守物語は戦国時代の姫路城を舞台とする妖怪の姫と人間の恋物語だ。姫路城大天守の五重には妖怪が住んでおり、人間が入ると生きては帰れないと言われているという設定。その妖怪たちをつかさどる天守夫人・富姫が、城主の命令で自らの命を顧みずに五重へと入ってきた鷹匠(たかじょう)の男性と恋に落ちるというストーリー展開になっている。

 

 

「天守物語」の一場面

 

 

 天守物語は5月6日まで同会場で、同月27、28日には浜松城公園でも上演される予定だ。宮城総監督は記者会見で「会場が駿府城と浜松城であり、一番ふさわしい作品は何かと考えた。演劇の機能は今ここにいないものを呼び寄せること。城は多くの人が亡くなった場所であり、そこで天守物語を上演することで、観客もたくさんの魂がいたことを感じられる。その魂を呼び出して演劇を見せることによって、その魂がコミュニティーを守る存在になってくれるというのが、演劇の儀式としての側面でもある」と語った。

 

 

2人で1役

インタビューに答える俳優の阿部さん

 宮城総監督の演出の特徴の一つが「二人一役」だ。登場人物は舞台上で演技をする「動き手」とせりふを担当する「語り手」の2人の俳優が一つの役を演じる。女性の役の語り手を男性が担うことも多いという。

 

 天守物語のヒロイン富姫の語り手を務めるSPACの俳優・阿部一徳さんは「1人で演じると、その俳優の私生活のようなものまで見えてしまうことがあるが、2人で演じることで、より客観的な、二人一役で出来上がってくる像のようなものが見えてくる。妖怪の美しさは女性俳優が、恐ろしさは語りの男性俳優が担うような部分もあり、いろいろなバリエーションで一つの役を表現できる強みがある」と説明する。

 

 動き手は能面のように表情をほとんど変えずに演じ、語り手も舞台上で観客の方を向いて動かずにせりふをしゃべる。人形浄瑠璃などに近い感覚があり、阿部さんは「観客に、その役に入り込んでもらうため。人形のように演じることで、俳優を見るのではなく、もっと大きなものを想像してもらいたい」と話す。

 

 

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