スポーツ、食、ホビーやサブカルチャーも魅力の高い文化だ。東アジア文化都市に選定された静岡県は、芸術や文化財だけでなく、「文化」の範囲を幅広く捉えて県の魅力をアピールしていく。今年は静岡の象徴である富士山が世界遺産に登録されてから10年となる節目の年であり、新型コロナウイルス感染拡大による景気低迷から脱却する「アフターコロナ」に向けた起爆剤としても、「東アジア文化都市2023静岡県」の役割に期待を寄せている。

「東アジア文化都市」は2014年に始まった文化庁所管の事業で、日本、中国、韓国の3カ国が毎年都市を選び、各都市間での交流や文化芸術関連イベントの開催を通じて、都市の魅力をアピールする。これまでに横浜市、新潟市、奈良市、京都市、金沢市、東京都豊島区、北九州市、大分県が選ばれた。今年の中国、韓国の開催都市はそれぞれ成都市、梅州市と全州市だ。

「節目の年」に選定

 インタビューに答える渋谷浩史・静岡県理事

 静岡県にとって、東アジア文化都市に選ばれた2023年はさまざまな「節目の年」だった。富士山の世界遺産登録10周年に加え、県が1996年から3年ごとに開いている「静岡国際オペラコンクール」の開催年に当たる。

 

 静岡県で東アジア文化都市事業を担当する渋谷浩史・静岡県理事は「とてもいいタイミングで選定していただいた」と歓迎する。

 

 静岡県には富士山静岡空港があり、中国、韓国、台湾などから多くの観光客が訪れていた。新型コロナ感染拡大の影響で国際線は2020年3月から全便が運休していたが、今年2月に韓国便が再開した。中国、台湾からの便についても、今後復活が見込める状況になってきており、渋谷県理事は「アフターコロナが到来するタイミングであり、東アジア文化都市となったことを『加速器』として、航空路線を復活させ、文化をアピールすることで静岡県の観光を回復させたい」と意気込みを語る。

 

 

豊富な食材、スポーツも

 文化といえば、芸術や文化財を思い浮かべるかもしれないが、静岡県は東アジア文化都市としてアピールするに当たり、文化を幅広く捉えて魅力を発信していく方針だ。富士山は静岡県にとって最も重要な文化の一つであり、「富士山の日(2月23日)」に開催した「富士山の日フェスタ」で東アジア文化都市宣言を行った。温泉や美しい海岸線を擁する伊豆半島や駿河湾などの自然、マグロやカツオ、ウナギ、シラス、サクラエビといった海産物にお茶、わさび、ミカンなどの食材も重要な文化だ。

 

 

富士山とお茶畑

 

 

 静岡県はスポーツも盛んだ。清水エスパルスやジュビロ磐田などJリーグに4チームがある「サッカー王国」として知られる。日本開催で盛り上がった2019年のラグビーW杯では、袋井市のエコパスタジアムで日本代表が強豪のアイルランドを破り「静岡ショック」という言葉が世界中に広まった。東京五輪・パラリンピックでは、自転車競技の会場となった。卓球混合ダブルスで金メダルに輝いた水谷隼、伊藤美誠両氏は磐田市の出身だ。 

 

 

ホビーのまち・静岡

 静岡は「ホビーのまち」でもある。大手模型メーカーの「タミヤ」や「BANDAI SPIRITS」などが本社や工場を置くプラモデルの一大産地となっている。徳川家康公の時代に静岡に職人が集められたのが起源とされる。静岡市は「静岡市プラモデル化計画」と名付け、郵便ポストや公衆電話などを組み立て前のプラモデルに模したモニュメントを市内に配置している。また、静岡県内は「ちびまる子ちゃん」をはじめ、人気アニメの舞台となることも多く、サブカルチャーの「聖地」でもある。

 

 

郵便ポストのプラモデル型モニュメント

 

 

 芸術分野では、県立の劇団「静岡県舞台芸術センター(SPAC)」に最も力を入れている。渋谷県理事は「世界的に評価されている劇団が静岡にあることを県内外の皆さんにぜひ知ってもらいたい」と話す。

 

 

目指すは「過去最大規模」

 静岡県は東アジア文化都市となった今年1年間を通じ、多くの公式行事やイベントなどを実施して盛り上げていく。3月現在で約360事業が確定しており、県の関連予算は21億円に上る。年間通じての目標は500事業で来場者360万人以上、経済効果は100億円以上としている。実現すれば、事業数、来場者、経済効果のいずれも過去最大となる。

 

 具体的には、春と秋の式典や国際交流などの公式行事、広報活動でブランドの価値と認知度を高める「交流・発信事業」を頂点に、文化芸術分野の中核事業として県や県の文化施設が行う「コア事業」、県庁の各部局が総がかりで多彩な魅力の発信に努める「協働プログラム」、県内の自治体や民間が実施するイベントなどを認証する「地域連携プログラム」の4階層構造となっている。

 

 

特設HPで機運盛り上げ

 静岡県は東アジア文化都市の機運を盛り上げるため、ホームページを立ち上げた。東アジア文化都市のコンセプトや開催趣旨の説明、開催都市である中国・成都市、梅州市と韓国・全州市の紹介などが見られる。

 

 

静岡県の特設ホームページ

 

 

 開催予定の認証されたプログラムの情報も掲載されており、「お祭り」「体験・遊覧」「演劇・ダンス」「講座、講演、シンポジウム」などのジャンル、東部、西部、中部の県内地域、開催期間で絞り込みができるほか、キーワード検索でどのようなイベントがいつ行われるのかが分かる。

 

 このホームページでは、広報用のユーチューブ番組も配信している。渋谷県理事 がナビゲーター役の「ドクトル・ケンリッジ」として自ら出演。「ウイークリー東アジア文化都市」と題して注目のイベントなどのトピックを、時に「ゆるい」雰囲気で伝えている。

 

 

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ