「歩きが遅い」。首相に密着するいわゆる番記者が、安倍首相(当時)の異変に気づいたのは、退陣表明からほぼ1カ月前の2007年8月中旬のことだった。警護官(SP)も気にするほどのただならぬ雰囲気を感じ取ったことが、取材の始まりだった。最高権力者の病状はトップシークレット。関係者の口が重いのは当たり前だ。最初は参院選で惨敗し苦境を打開できない疲労の蓄積かと思われたが、取材を進めるうちかなり深刻な状況であることが浮かび上がってきた。だから、突然の退陣表明はタイミング的に驚きではあっても、決して予期せぬ事態ではなかった。辞任を決意するまでの首相の実像に迫った記事は、「かゆと点滴の日々」と題して配信された。
 わたしたちの取材領域は、権力を持つ者の営みすべてと言っていい。政治は今、衆参ねじれ下の激動期にある。既に表面化した大連立ばかりでなく、政界再編といったダイナミックな動きも出てくるだろう。だが、そうした流れをとらえるには地道な取材が欠かせない。事実の積み重ねで権力の深奥に迫ることが、ひいては政権選択の判断材料につながる。そうした気概をもって日夜の取材に臨んでいる。

 
 「基礎年金番号に統合されていない年金記録が、約5000万件あることが判明しました」。07年4月3日午後、東京・霞が関の社会保険庁。「年金受給者への影響は避けられないだろう」。発表を聞いた厚生労働省詰め記者は一瞬、言葉を失った。宙に浮いた年金記録問題はその後、政権を揺るがすスキャンダルに発展した。
 国民生活に密着している行政を追うのが内政部の仕事だ。総務省や国土交通省、文部科学省など中央官庁の予算と政策立案。記事は一般読者だけでなく、インターネットの行政情報メディア「iJAMP」を通じ約30万の読者に届けられる。大半は省庁や自治体の職員ら行政のプロだ。
 都市と地方の税収格差をどう埋めるか。いわゆる「三位一体改革」により自治体の貧富の差が無視できないレベルに達し、格差解消が08年度税制改正の最大のテーマに浮上した。「法人事業税の新税化検討」「地方消費税、拡充方針明記へ」。内政部記者はきょうも、政策を見詰め続ける。
 「株価が急落しています」−08年1月4日午前。電話の向こうから若手記者の緊張した声が鳴り響く。年明け後の初の売買日。日経平均株価の急落を伝える連絡だ。
 昨年後半から変調を来し始めた日本経済。米住宅ローン問題、原油高騰と暗い材料が目立つ。如実に現れるのは株価だ。07年前半は上昇を続けたが、その後の下落ピッチは速い。
 連絡を受け、デスクがキーをたたく手にも力がこもる。「株価が昨年来安値を更新した」。このフラッシュが時事通信社の端末、ニュースボードを通して全国津々浦々に伝わる。
 要因は複雑だ。「日本株が見放されているんですよ」「国会のねじれ現象の影響で不安感が増幅されています」。日ごろ、経営者、ディーラーらに接触している記者からは背景説明がある。株価はその国の経済を映し出す鏡の一つ。記者として、刻々の動きをフォローしているという充実感を感じる瞬間でもある。

 「松下電器産業が社名をパナソニックに変更し、グローバル・エクセレンスを目指す」。記者会見場から矢継ぎ早にフラッシュを入れ、直ちに本記、サイド記事の執筆にとりかかる。創業者の名前を捨てる決断は、海外市場での激烈な競争を前にした松下の危機感の表れだ。「パナソニック」という国際ブランドを確立し、さらにどんな提携戦略を打ち出していくのか。次の一手を探るため、休む間もなく夜回りに出る。
 新聞の1面を飾る再編劇は昨年から連続している。電機に限らず鉄鋼、百貨店・流通、食品・飲料。あらゆる業種の日本企業に照準を合わせる外資系ファンドの思惑も見逃せないポイントになる。「米TPGと松下のビクター売却交渉が決裂したようだ」。彼らの堅いガードをくぐり抜け、その核心に迫らなければなかなか全容は見えてこない。
 世界的な合併・買収(M&A)の波が押し寄せ、企業ニュースに対する投資家や関係者の関心が高まっている。急速に変ぼうする業界地図を描きながら再編の動きを追い、株価にも影響するスクープを世界に向けて配信する。記者の醍醐味を今ほど感じるときはないのかもしれない。
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